要旨

 

要旨1
 
「「共生言語としての日本語」の教育の日本語教室」
 
日本国内に滞在する外国人はこの10年間で7割も増加し、全人口のおよそ1.2%180万人を数えるようになった。新来の定住外国人が地域社会に根付いていくためには解決を迫られ手入る課題がいくつもある。その中の一つが如何に地域の共通語である日本語の習得を支援するかであり、それと並ぶものとしてかれらの母語や母文化の保持を保障するかという問題である。
コミュニケーションの手段としての日本語、そして自分が自分らしく生きていくための根っこの部分となる母語、母文化が非母語話者においても同じ重要である。岡崎(1994,1996)は「多言語 多文化共生のパースぺクティブに立つ日本語教育」を提起している 。
共生言語は母語話者同士のコミュニケーションを媒介する言語とは本質的には別物である。例えば共生言語としての日本語は母語話者の頭の中にある日本語とは違うものであり、母語話者の日本語が規範とされることはない、従って、母語話者が一方的に非母語話者に教えることできない。共生言語の学習は既に存在するものを学ぶのではなく、母語話者と非母語話者双方の恊働作業によって新たに創造されるものである、そして、この共生言語の創造を側面から支援していく日本語教育が「共生言語としての日本語」の教育である。(岡崎1994)。
本研究では、地域にあるボランティア日本語教室を取り上げ、第一に、教室で何を実験しようとしているか、第二、「共生言語としての日本語」の教育実現にどのような示唆を与えるかを考察する。参与観察により詳細なデータを収集するによって対象に迫ることを目指す、彼らの言動から探り、『共生言語としての日本語』の教育を地域のボランティア日本語教室で実現するための課題を明らかにする。
日本人と外国人の相互交流によって日本語が新しく創造される、そうした新たな日本語、つまり共生言語としての日本語として、教える、学ぶ対象である、日本語を見直そうという視点を築くことは極めて難しい作業であることは分かる。学習権は母語と日本語が同等に使われてははじめて真に保障される。カリキュラムの再検討も必要と考えられる。
 
 
 
 
 
要旨2
 
「コミュニカティブアプローチのゴール」
 
日本語学習者の多様化及び学習者数の増加にともない、日本語教育においても「コミュニカティブアプローチ」が新しい活力ある教授法の一つとして注目されるようになった。と同時に様々な角度からする議論も行われ、論伝も次第に煮詰まってきている。ここでは以下の二つの点に焦点を絞って考察を進めていく。
1「このアプローチで正確さが教えられるか」
2「このアプローチで、書き言葉が教えられるか」
正確さは次のような二つ意味を持って使われていると考えられる。第一は、文の形の上での正確さである。第二は発音の上で正確さである。
総論から言えば伝達能力の養成を目標とするコミュニカティブ・アプローチでは、このような意味の正確さはあまり重視されない、従って、長い目で見れば養成されることになるであろうが、コースの中でそれらの直接的養成が目指されることは無いというのが一応の答えになるであろう。課題達成のために必要な要素は文の形の正確さだけではないという意味において二義的といえる。
第1点については正確さが言語の形式として概念的に把握されているのだとすれば、コミュニカティブアプローチではその直接的養成目標としないこと、第2点については、伝達能力とは本来、四つ技能が統合されて発動される能力として把握されるものであることから、伝達能力の養成をゴールとするコミュニカティブアプローチでは当然追求されること、という結論を得た。
 
 
 
 
要旨3
 
外国語学部に固有のカリキュラムと教育目標を前提として,比較言語や比較文化の視点からティームティーチングによって2言語を同一時間内に学習する「多言語講義」を複数科目(英語とフランス語,英語とドイツ語,英語とスペイン語)実施し,(1)講義に対する学生の満足度と(2)講義の肯定的評価を規定する要因から本講義を分析,評価した.その結果,(1)本講義の特徴である「2つの外国語を2人の教員から学ぶ」という講義形態は「講義での指導」「講義での教材利用」「講義に取り組む態度と今後への意欲」「語学能力の向上への実感」という4つの視点から見たときに,学生の満足度が高く効果的であったこと,(2)本講義の評価を構成する6因子を抽出し,それが「語学力向上に対する満足」「熱心に受講したこと」「授業に関する満足」をどのように規定しているのかについて本講義の特徴との関連において明らかにすることができた。
 
要旨4
 
「帰国生徒受け入れ校における社会教育」
 
経済活動の国際化につれて、海外から帰国者も一層増える、帰国児童、生徒教育に対して社会的関心度もますます高まりつつある。このような中で、帰国生徒の特性を踏まえた教育の必要に応えへき、さまざまな教育的努力が続けられている。筆者は日本国内で教育をうけた生徒と海外からの帰国生と一緒に教育する目的で設立された学校で調査を行い、過去6年間にやく1、400名生徒からの政経レポートから、生徒たちにとって年中行事とさえなってきている。実施は次のようなねらいにもとづくものである。第一は、生徒に情報処理の力を身につけさせることである、第2は、生徒が選んだ特定のテーマを追求する中で、社会や人間行動の分析を通して社会認識を深めていくことである。この実験を通して、生徒に劣らず教師もまた多くのものを学んでいる、そのひとつは設定したテーマに照準がピタリとあい、問題の究明に取り組んでいく際に生徒が示す圧倒的に大きなエネルギーについてである。第二にそのことはレポートのテーマの多様性に関連している。社会認識を深化させたりするためには、彼らが自らの経験を突き離して意識化し、相対化する必要があるだろう。その経験が反省を通して意味づけを与えられたときに大きな価値も持つものとなる。
 
 
要旨5
 
「異国に母語を創る」(質的研究)
 
日本の留学生に関する研究はこれまでも多数行われた。しかし、その中心は留学生活についての一般的な実態調査や仮設検証を目的とした量的研究が中心だった。その一方で近年質的研究、中でも「エスノグラフィ」への関心が高くなってきた。
本稿では日本の一大学に学ぶインドネシア人留学生のうち、単身で生活するインドネシア人大学院生が、インドネシアでの経験と理解に基づいて、日本でも続けるインドネシアスタイルの日常生活について明らかにする。そして筆者のとった質的研究方法としてフィールドワークについても説明しながら、これまでの留学生についての研究で主流を占めてきた実態調査や量的研究とは異なる観点と方法に基づいて質的研究の意義についても検討し、留学生活の側面について明らかにした。そのように、留学に関わる多様な側面のそれぞれについて詳しく調べることを通して、留学の全体像を明らかにしいくことが必要である。
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