研究計画書(一回目原稿)

 

中国におけるコミュニカティブ・アプローチ教授法導入への展望
 

研究動機
 日本国際交流基金の調査(2003)によると、中国での日本語教育の特徴は、学習者の全体数はもちろんだが、中・上級段階に達する学習者が非常に多いということである。特に、近年中国の高速な経済発展に伴い、日本語の分かる大量な人材が必要となってきた。日本語だけではなく、思考能力と日本語の運用能力の両方を備える人材を社会に送り出す必要性が高まってきた。

中国の日本語教育の現状は学校での学習時間数が少ないこと、学習者は純粋な中国語環境の中で学習すること、教室活動は講義形式の授業形態をとっており、先生の役割が中心的になって、学生たちは知識を受けて暗記することが多いこと。それに、大学の日本語試験問題が文法、語彙の習得に重点を置かれているため、その指導法も文法や語彙が中心となっている。教室活動がコミュニケーションをあまり重視していないを感じられる。さらに、学生の中には日本語を勉強する目標は日本語能力試験1級に合格するためという答えを持っている人もいる。しかし,第二言語を学習する目的とは、異なる文化、社会においても自分自身であるために、生活を確立し母語話者とコミュニケーションできることであろう。言語をコミュニケーションの手段として周りの人たちと協働的な関係を作っていくことが必要なのではないかと考える。環境にふさわしい、感性に訴えて具体的な場面に対応できる、生きた言語教育方法を推進し、中国国内での大学日本語学習者に対する教授法を研究し努力することが必要だと思う。
そこで私が注目したのは、教授法の一つであるコミュニカティブ・アプローチである。なぜなら、コミュニカティブ・アプローチには二つの特色がある。一つ目は、言語教育の目標を意味の伝達能力の養成におき、それは文法能力だけで得られるものではなく、文法能力の外に場面に応じた適切な表現を使える能力の獲得が必要であり、文法能力以外のこれらの能力の養成を積極的に教育の対象としなければならないとした点があげられる。二つ目は、学習者は学習活動の中心とし、学習過程において中心的な役割を担うことである。
 日本に留学し、日本で生活する中国人が増えている、中国国内の日本語教育を見直す必要がある。まず、中国の大学の日本語教育、中でも中級レベルの教育の改善を提案する。ではなぜ中級レベルの学習者を研究対象とするのだろうか。伝達能力とは意味のやり取りを行なう、聞く、話す、読む、書く、すべての能力のことである単語、文を構成する、発音するなどの文法能力はコミュニケーションの必要な条件であるから。大学の中級レベル日本語学習者は基礎から勉強しはじめて、一般的な事柄について会話ができ、読み書きできる能力が備われた。コミュニケーションに必要な技能を訓練すれば、効果が大きくなる可能性があると考える。
私は本研究において、中国人日本語学習者のコミュニケーションの問題点の原因を探し、コミュニカティブ・アプローチという日本語教授法を大学で中級レベルの日本語学習者に導入する可能性を考察し、それらを基礎として自然なコミュニケーションを育成するための授業法の改善案、教材作成を提案したい。コミュニカティブ・アプローチでは学習者の必要とする伝達能力の養成を目標とし、学習者中心の教育をするのであるから、学習者がどのような立場で、どのような目的をもって日本語を学習しているかを中心している。
先行研究
岡崎他(2001)は「コミュニカティブ・アプローチは全世界の英語教育を中心とした語学教育における教育観、学習観を親たちに育成させる土壌となっている。それは単一のアプローチよりはコミュニケーション能力の養成を基本に据えたうえで英語教育・語学教育全般の中に様々な取り組みを築き上げ、同時に、一人一人の教師の中に言語教育観を育んできたひとつの土壌というべき豊かな拡がりをもったものである」と述べている。
岡崎眸(1994)「コミュニカティブ・アプローチのゴールとする、学習者の現実をよく観察し、学習者が必要とするコミュニケーションのスキルの養成を図ろうとするならば、むしろ口頭能力も読み書きの能力も統合された教授法が追求されなければならなくなる。つまり、ある一つの課題を伝達活動として達成するために、四技能は統合して使われることが多い。」と述べている。
Richard and Roders(1986)は「コミュニカティブ・アプローチはコミュニケーション能力の養成をゴールとして持つ」と述べている。
青木直子 「コミュニカティブ・アプローチの教育観」(日本語教育、1991)でも、教授法、指導上の問題点として、「文法の正確さとコミュニケーションができればよい」という指摘していた。学習者にとって日本語を勉強するとき、単に文法だけでは不十分で、コミュニケーション能力の養成も必要である。
研究目的
 そこで、本研究では中国人日本語学習者大学生を対象に、従来の教授法のメリットとデメリットを考察する。特に中級の学習者に対するコミュニカティブ・アプローチの導入の可能性を検討し、適用するためにどのような方法が可能かを考える。大学中級日本語学習者は基礎から日本語を勉強してから、やや高度の文型、文法、漢字、語彙を習得して、日本人と話し合うとき、聞き取ることができるため、その話題を送り返す過程で、コミュニケーションの支障が起きる場合が多い。コミュニケーション能力を育成するためには何かが必要だろうかを解明したい。
研究意義
 従来の教授法の不充分点をコミュニカティブ・アプローチ教授法で補完すれば、コミュニケーション能力がある日本語学習者を養成することができる。それによって中日両国の文化の促進につながればと思う。
研究方法
1文献調査
 コミュニカティブ・アプローチに関する先行研究を収集、研究する。
2アンケート調査
 現状を把握するために中国母校の大学の日本語教師を対象にアンケートをする。
今中国でどんな教授法を採用しているか
授業中にコミュニケーション能力を高めるためにどのような方法をとっているか
コミュニケーションに支障が起こる原因は何か、この問題を解決するために何が必要だろうか。
国内と日本で日本語教育を受けた中級レベルの日本語学習者にアンケートをする
今、どんな方法で日本語を勉強しているか。これからどんな方法で日本語を学習したいか。
日本の母語話者とコミュニケーションするとき、どんな問題があるか。
アンケート調査と文献調査を整理して、文献研究を踏まえて日本語教授法のコミュニカティブ・アプローチを中国に導入する可能性を考察する。
 
参考文献
青木直子「コミュニカティブ・アプローチの教育観」『日本語教育』73号1991年、12-22ページ。
岡崎他(2001) 「日本語におけるコミュニカティブ・アプローチ」 凡人社
岡崎他(2001) 「日本語教育における学習の分析とデザイン-言語習得過程の視点から見た日本語教育」 凡人社

Richards,J.,J.Platt,H.Weber(eds.) (1985) Longman Dictionary of Applied Linguistics. Longman

And Theodore S Rodgers. (1986) approaches and methods in language teachinga description and analysis .Cambridge university press

日本国際交流基金 http://www.jpf.go.jp/j/kans
 
 

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